静岡市文化・クリエイティブ産業振興センター(CCC)

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Creative NOW演劇とは何か。

~ZOOM劇場へようこそ~

CCC HUB登録クリエーター 宮城嶋 遥加

演劇とは何か。煌びやかな劇場でスターが現れるのが演劇、小さな空間で目の前で繰り広げられる虚構の世界に身を浸すのも演劇…。その答えは人によって、時代によって様々である。ピーター・ブルックはひとりの人間が何もない空間を1人で横切り、もうひとりの人間がそれを見つめている、それで演劇行為が成り立つと言うし、平田オリザは「パノラマ・メスダッハ」という娯楽施設のパノラマ画を“演劇的”だという。多くの演劇人がこの問いに向き合い続けてきた。
2020年は、コロナ禍によって「演劇とは何か」という問いに向き合い続ける1年だった。私が所属するSPAC-静岡県舞台芸術センターではGWに予定されていたふじのくにせかい演劇祭が中止となった。芸術総監督の宮城聰は、本物の演劇が「カニ」としたら今は「カニカマ」を見つけようと言い、代替企画としてくものうえせかい演劇祭を映像やトークの配信、オンライン演劇、電話で朗読などのプログラムが展開された。演劇界を見渡してみても2020年は演劇の映像配信、オンライン演劇やパフォーマンス動画の投稿などの新しい試みが始まった。この流れは今も続き、これからの演劇の形は以前もの完全に戻るということはないのかもしれない。2500年の歴史の中で演劇は疫病その他社会的な混乱の中で何度も困難に向き合ってきた。それでもずっと続いているのだから、本当にすごい奴だと思う。そして、今ももれなく演劇は続いている!

先日、インドネシアのテアトルガラシという劇団のUr Fearという企画に参加した。これは、ガラシによるMultitude of Peer Gyntsという企画の一部で、複数人のアーティストがそれぞれの視点で捉えた「ペール・ギュント」を作品にしてネット上で発表するというもので、私はベトナムとインドネシアのアーティストとの混成チームの作品に参加した。ここで、提案されたのは、ZOOMを使った即興の演技の稽古だ。ルールはまず、「Reader(読む人)」と「Mover(動く人)」を決める。「Reader」は「ペール・ギュント」のテクストの一部を読む。「Mover」は自宅でその音を聞きながら反応して動く。抽象的でも、具象的な動きでもいいし静止してもいい。画面に写る他の「Mover」に反応して動いても良い。ネットの回線が切れても、一つのシグナルだと思って続ける。画面で絞られたアクティングエリアや日常風景の映り込み、回線の途切れもパフォーマンスの一部である。ZOOMが本来あるべき「演劇」を補填するためのものではなく劇場として捉えられていた。
お客様を入れての本番もあった。客席入場前はZOOMの待機室、開場時間になると待機室が開いてお客様の入場。入場のときはビデオオン、開演アナウンスが入り、開演中の注意事項(ZOOMの設定、ビデオオフ、マイクはミュートなど)の説明が入る。開演するとパフォーマーだけが映像に写る。お客様はZOOMのチャット欄でコメントをつけたり、拍手を送ったりする。

稽古から本番まで同じ自分の部屋にいるのに、劇場にいるかのような臨場感があった。そこには演劇があった。しかも、何かの代替えではない。確かに私は俳優としてZOOM劇場の舞台に立っていた。この劇場がすごいのは、国境を一瞬で超えられるということ。画面に写り込むベトナムやインドネシアの景色が新鮮だった。
今を生きる演劇人は世界各国で、あの手この手で「演劇とはなにか」を問い続け、様々な試みを行っている。私はその試みの1つに参加し改めて、演劇と演劇の魔力に憑かれた人間の美しさを知った。地球上に人がいる限り、この問いは永遠に在り続けるのだろう。
そして今、「俳優」を職業としている私は、「演劇とはなにか」という問いへの答えと共に変化する、「演劇における俳優とは何なのか」という問いについて考え続けている。

※画像;Teater GarasiによるUr Fear企画関係者

俳優 宮城嶋遥加/CCC HUB登録クリエーター
<このコーナーは個人の見解リポートです>

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