-物語の始まり方はもっと自由になっていく-
大道芸でよくみられる演出の一つに「客あげ」があります。
観客を舞台にあげてショーを行うことをそう表現します。
これは、舞台の世界をみんなのものに一変させる魔力を秘めています。大道芸にはそもそも境界線がなく、舞台と客席を分け隔てるものがありません。私自身、同じ集団が二度と集まることのないであろう面々で一から作り出す大道芸の世界に心ときめいて、(気がつけば)うっかりプレゼンター側に回ってしまった一人。私にとっての幸運は、多彩なアーティストが一堂に会する大道芸ワールドカップを有するこの静岡で大道芸活動を始めたことでした。
それぞれの世界を広げる大道芸人たちと、期待感をもって交わっていく観客とが見事に一体化していく様を、自分たちの日常がある街中で体験できるのですから、こんなに素晴らしいことはありません。
そんな大道芸の自由でクリエイティブな世界観を、例にもれずコロナ禍がかき消していきました。「客あげ」なんてもってのほか、同じ空気を吸ってすらダメ!という一時の状況には無力感しかなく、おまけに私には運営中の小劇場BAR「あそviva!劇場」もありました。
≪3密な賑わい≫によって成り立っていたはずの全てを否定され、果たしてどうやってこの場を守っていくのか。小劇場を使う人や求める人がいなくなった中で、それでも何かできることはないか。その一つが、プランゼロから即興的なショートフィルムを半日でつくる企画「シネマdeVIVA!express」でした。
妻で演技の相方でもある「ひっきぃ」とともに始めた取り組みです。最終的な出力が映像作品ということで、作品に関わりたい人がもしいたらどなたでもご一緒にどうぞ!という呼びかけが恒例のオンラインイベント。結果的には、大道芸にはないアプローチでそれぞれの自宅から視聴者とノーボーダーな共同作業ができて、しかも作品まで仕上がるというところに新しい魅力を感じました。
「客あげ」ならぬ「客まじり」。制作にとことん介入してもらう。演出すらほぼ丸投げとなることも。それでも作品は企画を進めるごとに一つ一つ仕上がっていく。大道芸の一体感とは異なる、制作回ごとに成り立つ「ひとつのチーム」としての達成感がありました。これと同じようなことを、もしかしたらこれからの新しい大道芸に活かすことができるのではないか。「自分たちがこの世界を創った!」感を観客と共有するということ。
好奇心を持った誰もが舞台になだれ込める余白と、なんとか世界を形にしようと動くその場の全員によるありとあらゆる出来事全て。「客まじり」で動き出す物語世界を、ゴールまで導くお手伝いをさせて頂く。それこそが、大道芸人であり、小劇場主でもある私の真の役割なのかもしれません。
みんなのあそviva!を、街に、地域に広げていこう。
大道芸人
あまる
ショートフィルム企画のアーカイブ
https://www.asovivatheater.com/express
<このコーナーは個人の見解リポートです>